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北大路烏丸の夜
2008/07/06(Sun)
東京での仕事を終えて、京都へ戻った。

連日の雨も、その日の夜は一休み。
20時近くになり、私は妻と二人で、街頭活動に出る事にした。
向かい先は、自宅から程近い、北大路烏丸のアーケードである。

いつもの3人掛けのベンチには、先客が一人座っていた。
見覚えのある、ホームレスとおぼしき風体の、60代の男性である。
白髪頭ではあるが、襟足は、なんとなく切り揃えてあるのが見えた。

となりのベンチは、少しヨレヨレではあったが、
「まぁ、いっか」と、私と妻は陣取ることにした。

     私は、となりの彼の事が、少し気になっていた。
     彼の、黙ったままタバコを吸っている姿を、横目で見てるうち、
     何時しか、なんら自分らと変わらぬ一般の人なのだと、思えた。

     視線を移すと、少ないなりにも、地下鉄やスーパーへ行き交う人々が、
     私たちの前を、通り過ぎて行くのみであった。

そんな中、50才くらいの、一人の買い物帰りの女性が、自転車で通り過ぎた先で、
何かに気づいたかの様に、振り向いた。
彼女は、自転車から降りて、となりの彼に近寄り、声をかけた。

「おじさん、晩ごはんもうすんだぁ?」

彼は、首を横に振り、「いや」と小さな声で返した。

彼女は、自転車の買い物袋から、割引シール付きの大きな弁当と海苔巻きのパックを取り出し、
彼の目の前に差し出した。

「おじさん、どっちにするぅ?」

彼は、迷わず大きな弁当を選んで、嬉しそうに受け取り、
関西なまりの、「ありがとぉ。」と、彼女に頭を下げた。

     私は、二人を見ているだけで、うれしくなった。

彼女は、私たちとも笑顔の会釈を交わし、
「じゃあね」と、言って立ち去った。

     私は、何のためらいも無く、弁当を手にした彼に、
     「よかったですね。」と、声を掛けた。

彼は、私にペコリと「ありがとぉ。」と、返した。

     私は、彼からの、「ありがとぉ。」の言葉に、息を呑んだ。
     私は、何もあげていない。
         一声掛けただけである。

     日頃、様々な場面で使われている「ありがとう」の言葉。
     それらとは、明らかな違いを、私は感じたのだ。

     それは、本当に素直な「ありがとう」だったと、私は思った。

     世の中の、多くの人々が今、忘れてしまったもの。
     子供のような、素直さを、彼は持っている。
     一人の人間として、大事なものを失っていない彼がいることを、私は知った。

お客の無い時が流れた。
ふと、妻が「お客さんが来るまで、何かあなたの昔話をしてよ。」と、言ってきた。
   
     私は、昔を辿り、幾つかの体験の話をすることにして、お客を待った。

何時しか、時は22時を過ぎ、アーケードの灯りが落ちた。

     「どうやら、今夜のお客さんは、オレだったってことだな。」

妻は、「話の途中から、私もそんな気がしていたわ。」と、笑って言った。

店じまいを終えて、帰ろうとした時、妻が「おやすみなさい。」と、彼に言った。
     
     私は、ハッとして振り向き、「おやすみなさい。」と、ペコリと頭を下げた。

彼は、ニッコリと笑い、何度も頷いた。
交差点で振り向くと、まだ彼は笑顔で、私達を見送ってくれていた。

     その笑顔は、鹿児島で寝たきりの、父の笑顔と重なった。
     世の中の、すべてを見通しているような、
     そんな目をした、あの父の、素直な笑顔だと、私は思った。


北大路烏丸を背に、妻と歩く紫明への道は、ひんやりとした、心地よい夜風が吹いていた。

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